第8回 物質輸送(拡散・浸透)
物質輸送とは、 細胞膜を通して 細胞の内外で物質が移動することである。 細胞が生きていくためには、 水・ 酸素・ 二酸化炭素・ 栄養分などが 絶えず出入りしている必要がある。
細胞膜の選択的透過性により、 物質の種類・大きさ・性質に応じて通しやすさが異なる。 輸送の様式は大きく エネルギーを使わない受動輸送と、 エネルギーを使う能動輸送に分かれる。 この回では受動輸送の代表である拡散と浸透を学ぶ。
拡散とは、 物質が濃度勾配に従って 高濃度の側から 低濃度の側へ 自然に広がっていく現象である。 エネルギー(ATP)を消費しないため、 受動的な輸送に分類される。
拡散には2種類ある。
- 単純拡散: 膜タンパク質を介さず、脂溶性(疎水性)の 小さな分子が リン脂質二重層をそのまま通り抜ける。 例:酸素(O₂)・ 二酸化炭素(CO₂)・エタノール・尿素など。 細胞呼吸や ガス交換はこの原理で進む。
- 促進拡散: 輸送タンパク質 (チャネルやキャリアタンパク質)の助けを借りて 水溶性の物質や イオンが移動する。 エネルギーは不要で、濃度勾配に従う点は単純拡散と同じ。 例:グルコース・アミノ酸の一部・Na⁺・K⁺など。
浸透とは、 半透膜を隔てて 水分子が移動する現象である。 水は「水の濃度が高い側(=溶質濃度が低い側)」から 「水の濃度が低い側(=溶質濃度が高い側)」へ移動する。 高校では「薄い方から濃い方へ水が移動する」と整理するとよい。
この水の移動を引き起こす圧力(引き込む力)を 浸透圧という。 溶質濃度が高いほど浸透圧は高く、 水を引き込む力が強い。
半透膜とは、 水(小さな分子)は通すが、 大きな溶質分子は通しにくい膜のことである。 細胞膜は完全な半透膜ではないが、浸透を理解するうえで 半透膜として扱うことが多い。 実験ではセロハン膜や 透析チューブが 半透膜のモデルとして使われる。
細胞を浸す溶液の濃度によって、水の移動の向きが決まる。
| 溶液の種類 | 外液と細胞内液の関係 | 水の移動 | 細胞の変化 |
|---|---|---|---|
| 等張液 | 濃度がほぼ等しい | 移動なし(つり合い) | 変化なし |
| 高張液 | 外液の濃度 > 細胞内液 | 細胞 → 外液(水が出る) | 縮む・収縮 |
| 低張液 | 外液の濃度 < 細胞内液 | 外液 → 細胞(水が入る) | ふくらむ・膨張 |
動物細胞には 細胞壁がないため、浸透による体積変化が顕著に現れる。 赤血球を使った実験でよく確認される。
外液が薄いため、赤血球に吸水が起こり 細胞が膨張する。 過度に膨らむと細胞膜が破れ、 溶血(ヘモグロビンが流出する現象)が起きる。
外液が濃いため、赤血球から水が流出して 細胞が収縮し、 しわしわになる(萎縮)。
植物細胞には 細胞壁があるため、 動物細胞とは異なる反応を示す。
細胞に水が入り、膨圧 (細胞内から細胞壁を押す圧力)が高まる。 細胞壁が支えるため、動物細胞のように破裂しない。 植物がみずみずしく立っていられるのはこの膨圧のおかげ。
細胞から水が出て、 原形質 (細胞膜に包まれた細胞内容物)が 細胞壁から離れる。 この現象を原形質分離という。
原形質分離した細胞を低張液(純水)に戻すと、 再び吸水して原形質が細胞壁に戻る。 これを原形質復帰という。 原形質分離は顕微鏡観察の定番実験(タマネギの表皮など)で確認できる。
| 項目 | 拡散 | 浸透 |
|---|---|---|
| 移動する物 | 溶質・気体分子など | 水分子 |
| 必要な構造 | 不要(単純拡散)または輸送タンパク質 | 半透膜(または細胞膜) |
| 移動の方向 | 高濃度 → 低濃度(濃度勾配に従う) | 低溶質濃度 → 高溶質濃度(水の浸透圧差に従う) |
| エネルギー | 不要 | 不要 |
| 速度の決定要因 | 濃度差・温度・粒子の大きさ | 溶質濃度差・温度・膜の性質 |
- きゅうりの塩もみ: 食塩水(高張液)の中で 野菜の細胞から水が出て脱水される。 これは植物細胞の浸透現象そのもの。
- 点滴液・生理食塩水: 赤血球を変化させないよう、血液と等張の 約0.9%食塩水が使われる。
- 植物が水分を吸い上げる: 根の細胞の浸透圧が 土壌水よりも高いため、根圧が生まれて水が吸収される。
- 原形質分離の観察実験: タマネギの表皮細胞をスクロース溶液(高張液)につけると 原形質分離が顕微鏡で確認できる。
拡散と浸透はともに 受動輸送(エネルギー不要)の代表例である。 拡散は溶質・気体が濃度勾配に従って広がる現象、 浸透は半透膜を通じて水が移動する現象と区別する。
一方、能動輸送では ATP(エネルギー)を消費して 濃度勾配に逆らって物質を輸送する。 代表例はNa⁺-K⁺ポンプで、 ナトリウムイオンを細胞外へ、カリウムイオンを細胞内へ汲み出す。 これらは次回「能動輸送と膜タンパク質」で詳しく学ぶ。
① 拡散 = 濃度勾配に従う・エネルギー不要・受動輸送
② 単純拡散(脂溶性小分子・O₂・CO₂)と促進拡散(輸送タンパク質を使う)を区別
③ 浸透 = 半透膜を通じた水の移動・薄い方から濃い方へ
④ 高張液 → 細胞縮む、低張液 → 細胞ふくらむ
⑤ 植物細胞(高張液中)→ 原形質分離、動物細胞(低張液中)→ 溶血
A. 拡散
A. 浸透
A. 濃度勾配
A. 半透膜
A. 等張液
A. 高張液
A. 低張液
A. 原形質分離
A. 膨圧
A. 溶血
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